柴犬とシャンプー 静かなる戦い
一般的に柴犬は濡れるのが嫌いだそうである。うちで飼っていた柴犬も、御多分に漏れず、濡れるのが大嫌いだった。シャンプーなどもっての他である。
そうは言っても飼っている側としては、時々洗わないわけにはいかない。洗わないと犬臭くなるし、何より不潔だ。
部屋でくつろいでいる犬に、
「今日はシャンプーしようか?」
と声をかける。すると奴はドギマギした顔をして、聞こえなかった振りをする。そして、ソロリソロリと部屋から出て行き、普段は絶対に入らない(笑)犬小屋とか自転車小屋に隠れるのだ。鎖で繋がれているのだから、何処へ逃げたって意味は無いのだが。
外にタライを置き、風呂場からホースでお湯を引いてくると、奴の心臓はバクバクし始める。お湯が満杯になったところで、奴を抱き上げると渾身の力で暴れだす。こちらも力を振り絞って、無理やりタライの中へ入れる。奴は緊張の余り身体が曲がったまま硬直している。その隙にザバーッとお湯をかけ、奴の戦意を挫くのだ。
「フィーン、フィーン。」
と、甘えたような、恐怖におののくような声を上げるが、当然無視する。全身濡れ鼠になり、シャンプー液を塗りたくられると、奴は観念したように大人しくなる。
シャンプーも終盤に差し掛かると、奴にも心の余裕が出来、そろそろ終わりだな、と様子をうかがいはじめる。こちらも油断して、もう暴れないだろう、とガードが甘くなった隙をついて奴は脱走し、泡だらけのままご近所を走り回った事もある。
泡をお湯ですすぎはじめると、気持ち良さそうな満更でも無い顔をする。そうだよ、気持ちいいでしょう?何で素直になれないかな?
すすぎ終わると奴は逃げるようにタライから飛び出て、ブルブルをする。そして居間が見える窓の前まで行き、ビシッとお座り。
「終わったぞー、早くミルクよこせ!」
と、催促する。いつもシャンプーが終わったら、ホットミルクをあげる決まりなのだ。
ミルクを飲み干すと、奴は辺り一面に身体を擦り付け、せっかく洗った身体を汚す事を忘れない。何やらどっと力が抜けるが、まあ一応シャンプーは終わった。